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シュリンキング・ジャパン

【インド】福岡モーターショーで「ナノ」披露、産業振興に期待(2009/12/15)


 11〜14日に開催された「福岡モーターショー2009(福岡自動車博覧会)」で、インドの自動車大手タタ・モーターズの超低価格車「ナノ」がお披露目された。福岡県がデリー首都圏政府と友好関係を結んでいることから、日本で初めての展示が実現。自動車の高機能化が進む中、機能をそぎ落とすことで新興国の一般市民にも購入可能な値段とされたナノを「自動車産業の新潮流の象徴」として紹介し、多くの人の注目を集めた。
(略)
 ……業界関係者には、日本にもかつてナノのように機能をあまり持たない車が走っていたと懐かしがる人が多いという。「(ナノは)自動車の原点で、ここからすべてが始まったと話す人も少なくない」(同係員)。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091215-00000016-nna-int

 確かに「ナノ」には、『三丁目の夕日』でも画面によく登場したオート三輪を彷彿とさせるところがあります。時代の流れの断面だけを静態的に切り取って、単独のハードウェアとしてこういった車を取り上げるなら、“懐かしアイテム”の味わいもあるかもしれません。
 ただ、時代の流れや社会の変容といった動態的な視野から捉えると、高度成長期の“懐かし”の低機能・低価格車は小さい車から大きい車へと拡大していくプロセスの上にあった存在であり、一方の「ナノ」は社会全体が大から小へと縮小していくプロセスにあるが故に注目されている存在です。

 「北部九州自動車150万台生産拠点推進構想」を掲げる福岡県はこの取り組みで、機能をそぎ落とし、価格を最低限に抑えたナノを紹介することにより、自動車産業の新たな可能性を提示した形だ。田島氏は「ナノのように機能が少なくても十分という人がいる市場が生まれている。この新しい潮流を知らせることで、自動車産業の振興に貢献できれば」と語った。


上記記事

 ごく少数のマニアがいわば珍品趣味のように外国の低機能の車を個人輸入して遊ぶのとは異なり、「ナノ」への興味は低機能・低価格車の市場が生成しつつあることを見据えた、産業・ビジネスの成立可能性の観点から喚起されているようです。「ナノ」そのものが直接日本の自動車市場にブレイクスルーをもたらすことはないでしょうが(そもそもあれナンバー取れるんでしょうか)、ここには明らかに時代の潮流が見て取れます。
 既に日本の自動車市場においては販売台数の落ち込みだけでなく、大型のセダンやスポーツカーが敬遠されて、より単価の安い(従って利幅の小さい)小型車や軽自動車にシフトしていく傾向が見られ、自動車業界からは若者の「クルマ離れ」を懸念するような声も聞かれました(それに対して「あんたらの“自動車絶望工場”たちがクルマ買えるだけの賃金も職も切り詰めたからだろうが」という反駁もありました)。「ナノのように機能が少なくても十分という人がいる市場」とは、こうした既存の自動車消費市場のダウンサイジングによって生まれるものです。かつてCMで「隣の車が小さく見えま〜す」と謳っていたような誇示的消費性向の市場は、無くなりこそしないもののだんだん成立が難しくなってきています。「ナノ」人気に象徴される低機能・低価格車のローエンド市場の成立可能性は、ハイエンド市場の先細りと表裏一体の関係にあるということでしょう。