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ライトスタッフ


 映画『ライトスタッフ』って、「燃え上がる漢のロマン」みたいな見方もできるんだけど、一方で見終わった後に微かな喪失感のような感触も残るのが面白い。
 味わいはだいぶ違うけれど、このあたりの感覚は『紅の豚』に似ているような気がする。舞台となっている時代や場所こそ異なれど、どちらの作品も、“空が一匹狼のフロンティアだった最後の時代”を描く、といった方向性を目指している。

 孤高の男が一人天駆けるという感覚。宇宙計画全体は最初から巨大な国家プロジェクトだったにせよ、マーキュリー計画までアメリカの宇宙船の乗員は一人だった。
 この、“ただ一人フロンティアを行く”感覚は、アメリカの伝説たるカウボーイのイメージを引き継いだものでもある*1。作中ではチャック・イェーガーサム・シェパード)が馬を駆っているシーンがしばしば登場する。これには、一癖も二癖もある孤高のガンマンがフロンティアを駆け巡るような感覚がテストパイロットや宇宙計画の世界にもあったのはマーキュリー計画までで終わりだ、という演出上の含みがあったんだろう。
 空を自由に飛ぶイェーガー。より高い宇宙をより不自由に飛ぶオリジナルセブンアストロノーツジェミニ以降はさらにもっと高い宇宙を、もっと不自由に飛ぶことになる。より高く、より速く、より遠く飛ぶという夢を追求し続けた男たちは、しかしその夢と引き換えに、飛ぶことの「自由」を失っていった。
 空を目指す男のロマンだけでなく、ロマンの追及と裏腹に天駆ける者たちを待っていたそんな皮肉な運命をクローズアップしているところが、『ライトスタッフ』の独特の持ち味になっているんだろう。

ライトスタッフ スペシャル・エディション [DVD]

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*1:フィリップ・カウフマン監督って、確かフロンティアが消え去っていくような時代を舞台にした西部劇も撮っていたような。未見だけど。