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ヒーロー

 よし、決めた。おれは今回の新型インフルエンザの流行中は、予防接種など受けないことにする。多少ワクチンが出まわりはじめたとしても、国が優先順位を決めなくちゃならないほどに足りないものを、とくに重篤な疾患があるわけでもない成人男性が消費するわけにはいかん。……
(略)
 むろん、健康な成人男性だって、インフルエンザで死ぬこともある。そのリスクは、おれたちで背負おうではないか。いままさに沈没しつつある豪華客船にあなたが乗っていたとしたら、女性や子供や老人を押しのけて救命ボートに乗るか、あなたは? 乗らんだろう。弱い者たちがことごとく避難し終えるまで、客船に残るだろう。まあ、そういう事態のマイルドなことが今回起こっているのだと考えれば、健康な成人男性が取るべきスタンスはあきらかだ。さいわい、今回の場合、豪華客船に最後まで残っていたって、死なない確率のほうがずっとずっと高いのだ。
(略)
 フィクションとちがって、人はヒーローになんてめったなことではなれないものだ。ただ、誰の目にも留まらない、誰も褒めてくれないところで、意地汚い生きかた、意地汚い死にかたをしないだけの矜持を保った行動をすることは、ふつうの人間にでも充分できる。


弱い者たちを先に逃がそう ─ 世界Aの始末書 2009/10/2

 やばい。俺はこの手の発想にとても弱いのだ。さっきまで『仮面ライダー剣』をちょっと観返していたので、「戦えない全ての人のために、俺が戦う!」という剣崎の台詞を思い出してしまった。