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単に「あったかくなる」だけでなく

 今週読んでいた本よりメモ。

 温暖化は人間の健康にとっても影響は大きい。マラリア、黄熱病、デング熱、トリパノソーマ症(眠り病)、オンコセルカ症などの病原体を運ぶ昆虫類が、温暖化や降雨量増大によって分布を広げるからだ。
 ケニアザンビアルサカなどの高地の冷涼地では、気温の上昇で、これまでマラリア蚊が繁殖できなかった地域にまでマラリアの発生地域が拡大してきた。南アでは、マラリアに感染するリスクの高い人の数が2020年までに四倍になるともいわれる。マラリアはアフリカの子どもの最大の死亡原因であり、世界保健機関(WHO)によると、労働損失や医療費などアフリカ経済に毎年120億ドルの損害を与えている。
 また、降雨量が異常に増えて洪水が起これば、人間や家畜の排泄物が水路や飲料水を汚染して赤痢コレラなど消化器感染症が起きやすくなる。実際、2000年に豪雨と三つのサイクロンに襲われたモザンビークでは、その後マラリアの感染者が五倍にもなった。
 以上のような温暖化にともなうさまざまな被害に対して、温室効果ガスの排出量が最低のアフリカ諸国が、なぜ被害だけを受けねばならないのか、といういらだちもアフリカ人の間で強い。
 南アのマルチナス・バン・スキャリキャク環境大臣(当時)は、IPCCの会合でこう演説した。「温暖化によってアフリカの機構がさらに乾燥すれば、主要作物であるトウモロコシの生産量が減少し、さまざまな病害虫も増加する。飢餓に襲われるのは、石油をふんだんに消費している先進地域の人間ではなく、われわれアフリカ人だ。一刻も早く京都議定書の対策を実現してほしい」。


(石 弘之『キリマンジャロの雪が消えていく ─ アフリカ環境報告』岩波新書、2009年、p.38-39)

 地球温暖化の問題として提起されているのは、単純に気温が暖かくなるとか寒くなるとかと言っただけのことではなく、環境・生態系が異なった形に遷移することで、経験的な蓄積を通じて維持されてきた定常的な生活スタイルがまったく維持できなくなったり、ある程度安定して巡っていた気候が崩れてまったく予測不可能な突発的災害をしばしばもたらすということです。気候に関する長期的・合理的な予測がまったく成立しなくなることによって、長期的視野に立った人間社会の維持運営が困難になるというのが問題の焦点にあるわけで、だからこそ地球温暖化という事象を“人間にとっての問題”として捉える時には、特に「気候変動(climate change)」という表現が為されるのです。単に「あったかくなる」だけで、それに伴う島や沿岸低地の水没、植生やその他生態系の変容による現行の農林業や居住環境への打撃などといった問題がいっさい起こらないのであれば、誰もこんなに騒ぎませんって。


キリマンジャロの雪が消えていく―アフリカ環境報告 (岩波新書)

キリマンジャロの雪が消えていく―アフリカ環境報告 (岩波新書)