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仮面ライダー・呼称の系譜

 いいか亜樹子。「仮面ライダー」って名前はな、この街の人たちが自然と俺たちに名付けてくれた名前なんだ。
 けっこう愛着わいてんだよ。
 その名を、遊び半分で汚す奴は許さねえ。絶対にな!

 これは先週放送の『仮面ライダーW』で偽仮面ライダー(アームズドーパント)の登場に激怒している左翔太郎の台詞。「仮面ライダー」の名前がここまでストレートに“ヒーロー”の意味合いを帯びている例は平成ライダーではかなり珍しいので、観ていて少々びっくりした。
 平成ライダー作品では「仮面ライダー」や「ライダー」という呼称が作中で使用されないものも多いんだけど、『W』では作中で「仮面ライダー」の名称が(作中オリジナルの文脈でではあるが)多用されており、しかも明らかに「街の人たちを救うヒーロー」というニュアンスが作品世界の中で強く打ち出されている。

仮面ライダー」という呼称が作中で使用されているか、使用されていたら作中でどういう意味合いが持たされているかは、平成ライダーの場合作品ごとにかなり異なっている。

  • クウガ……使用されていない。
  • アギト……使用されていない。
  • 龍騎……「仮面ライダー」の呼称あり。作中での定義は「カードデッキによって変身し、ミラーワールドに自由に出入りできる人間」か。
  • 555……使用されていない。
  • 剣……「仮面ライダー」の呼称あり。作中での定義は「BOARDの製作したライダーシステムかそれに準じた機能を持つ変身・強化装置を使用してアンデッドを封印する人間」か。
  • 響鬼……使用されていない。
  • カブト……「マスクドライダー」という呼称あり。作中での定義は「ZECTの製作したマスクドライダーシステムを装着してワームを倒す人間」か。
  • 電王……使用されていない。
  • キバ……イクサとレイに「ライダーシステム」という呼称が当てられていた、と思う(この作品のみ未見なので自信がない)。
  • ディケイド……「仮面ライダー」の呼称あり。ストーリー上の都合でメタ的に使用されているので特段の定義はない。今までの作品に登場した「仮面ライダー」は過去作中での呼称の有無の如何を問わず全て「仮面ライダー」として扱われている。
  • W……「仮面ライダー」の呼称あり。作中での定義は「風都に出没する怪人(ドーパント)を倒す謎の覆面ヒーローに対して街の人たちが付けた呼び名」か。


 ここで「作中での定義」として記載しているものは、話をわかりやすくするために私が今勝手にこしらえたもので(もちろん作中での「仮面ライダー」の扱い方に準拠するようにはしているが)、別に「東映公式設定」とかそういうものではないので念の為。

 このうち、「仮面ライダー」の呼び名が作中で「正義の味方」や「人間の自由を守るヒーロー」やそれに準ずるヒロイックな価値評価のニュアンスを伴っていたのは、はっきりした形では今のところ『剣』と『W』の二作品のみではないかと思う。しかも『剣』のほうは、もともと職業的呼称としてスタートした「仮面ライダー」の呼び名に対して、実際に変身するBOARDライダー二人(特に剣崎の方)が後から自らの使命感やアイデンティティを託していくという流れになっているため、最初からヒロイックなニュアンスが強調されていたわけではない。
『ディケイド』の場合、夏の劇場版(オールライダー対大ショッカー)あたりではやや変則的にそういうニュアンスを持っていないこともないが、もともとこの作品では、様々な作風を持った平成ライダー各作品のファンを“総取り”すると同時に昔昭和ライダーを見たことがある大人も引っ張り込むというマーケティング上の要請(恐らく)から、作中での「仮面ライダー」という言葉の使用法をあまり細かく決めずにわざと緩やかにしているようなところがあるので、作中のニュアンス云々という話はあまり適用できないかもしれない。